田山淳朗氏と語るubusunaの今と未来
田山淳朗氏と語るubusunaの今と未来
熊本県阿蘇市に広がる3,500坪の美しい庭園「ART OF GARDEN」。その雄大な自然環境からインスピレーションを得て誕生したガーデンウェアブランド「ART OF GARDEN」は、創設者の田山淳朗氏が自然と共生しながら生み出した新しい価値を提案しています。一方、熊本の伝統工芸と革新的なデザインを融合させた「ubusuna」は、発表から8ヶ月が経過し、お客様の支持を丁寧に集めてきました。今回、ubusunaの代表である古荘貴敏は、広大な庭を訪れ、ブランドが辿ってきた道のりとサステナブルなものづくりとビジネスについて語り合いました。
田山淳朗氏
1975年に文化服装学院を卒業し、第14回ハイファッション・ピエール・カルダン賞を受賞。その後、ヨウジヤマモトに入社しデザイナーとしてのキャリアをスタートさせる。1982年にヨウジヤマモトを退社し、自身のブランド「エー・ティー」を設立。1986年には第10回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞を受賞。1989年にはパリにて「ATSURO TAYAMA」ブランドを立ち上げ、1990年から1994年にかけてフランスのキャシャレル社とレディースデザイナー契約を結ぶ。1991年にはパリ・コレクションに参加し、世界的な評価を得る。1996年、第40回日本ファッション・エディターズ・クラブ賞デザイナー賞を受賞。2005年にはクロスプラスの顧問に就任し、全日空グループや愛知万博トヨタ・パビリオンのユニフォームデザインを手掛けるなど、さまざまなブランドやプロジェクトをプロデュースしてきた。
その後、長年のデザイン活動を通じて培った感性と、自然への深い共感から、熊本県阿蘇市に広がる3,500坪の庭園を舞台に新たな挑戦を開始。環境問題への意識と共感をテーマに掲げ、ガーデンウェアブランド「ART OF GARDEN」を設立。阿蘇の豊かな自然を背景にしたブランドは、熊本発のサステナブルな価値を提案し、地域と共生しながらもグローバルな視点を持つデザインを追求している。
ART OF GARDENの「共感」と「供給」
ー ART OF GARDENを展開してから1年が経過しました。ブランドの誕生を振り返りつつ、どのように現在に至ったのかを教えてください。
田山淳朗(以下、田山):2010年にこの土地(熊本県阿蘇市)を買いました。この3,500坪の庭から生まれたブランドが「ART OF GARDEN」です。20年前までは、環境問題は自分ごと化して捉えるのには程遠い存在でしたが、日本でも猛暑や記録的な高温が相次ぐなど、環境問題について考えることが増えました。
そこで、自分たちにできることをしようという気持ちが強くなり、この土地で緑を育てることにしたんです。大きな眺め、つまり「ランドスケープ」を作りたいという思いから、10年かけてこの庭を作り、今に至ります。
古荘貴敏(以下、古荘):今の時代、SDGsやサステナビリティといった単語を耳にしますが、それをビジネスと両立させるのは難しい。そんな中、田山さんはデザイナーとしての視点を持ちながら、ビジネスとして成り立たせているのがすごいなと思います。
田山:ビジネスは大きくすることだけでなく、ブランドの持つ個性や求められることを考えることが重要です。現在、ART OF GARDENは、香港、中国、東京、札幌、京都などでポップアップストアを中心にお店を展開しています。
そんな中で感じることは、お店を持つことは供給しなければならないということ。ビジネスは共感を得ることがポイントであるものの、そのためには供給が必要だと感じています。
古荘:私はubusunaの店舗をオープンしてまだ1年経っていないので、ブランドとしてはまだまだ未熟です。ですが、これからはブランドとしての生産計画や在庫計画を立て、費用も抑えながら、お客様が買い求めやすいMDを組んでいかなければならないと考えています。
和と洋はフラットか立体か
ー熊本で生まれたubusunaの服は、洋服でも和服でもない「日本の服」が特徴です。デザインについて具体的に教えてください。
古荘:今冬を目処に発売予定の新ラインナップはカジュアル寄りのデザインを展開しました。単なるカモフラージュ柄ではなく、熊本の緑や山をモチーフにしたデザインや、直弧文のデザインを使ったり、生地を折り返した時に富士山のように見えるジーンズなど、さまざまな形があります。
田山:良いですね!こういう広がりはとても良いと思います。
古荘:ありがとうございます。熊本発といった点で、熊本の経営者の方にはubusunaの存在を知っていただく機会も増えましたが、これを県外、さらに海外にどう広めていくか。そこが議論すべき点だと感じております。
とはいえ、無理やり供給するとなると本末転倒になってしまうんですよね。共創パートナーさんの技術を使わせていただいているからには、みなさんに還元できるように利益も出さなければならない反面、共感を得ながらバランス良くやっていきたいです。
田山:和と洋の捉え方が違うことも考えなければなりません。具体的にいうと、和はフラット(平面)、洋はコンストラクション(構築)あるいはデコラティブ(装飾的)というイメージがあります。
お菓子でいうと、日本では餅、せんべいのようにフラットで、ヨーロッパだとデコレーションケーキのように立体的。生活でいうと、日本人は畳に座っているのに対し、ヨーロッパは高めのチェア。幼少期からフラットなものを考えてきた日本人と、立体的なものを考えてきたヨーロッパの人たちには違いがあるのです。なので、熊本発のブランドが海外進出するには、フラットに立体の要素を入れていくことは重要だと思います。
古荘:新しい視点です。具体的には服のデザインにおいて、どのような点で異なりますか?
田山:和の服は脇線で縫うのに対し、洋の服は細腹(さいばら)、つまり女性でいうとプリンセスラインを入れて脇線をなくし立体にします。なので、和から洋の服を作るというのは、意外と難しいことではなく、線を1つ入れるだけです。言い方を変えると、そのままの形に細腹やプリンセスラインを入れるだけで、立体的に、洋の服に、仕上がるということです。一度、チャレンジしてみてはいかがでしょうか?
地域に縛られずに地方ブランドを展開していく
ー 熊本で服づくりをする中で、現地の職人さんや伝統工芸に携わる方からインスピレーションを得るという点も重要だと感じているのですが、どのように熊本にいる人たちとの関係性を築き上げ、どのように彼らに対して発信をしているのかについてもお伺いしたいです。
古荘:ubusunaの服は、山鹿で加工した煤、久留米絣、水俣の手織りの布、水上村での藍染めなど、さまざまな職人さんの力を借りてできています。なので、地域の力を使って地域に還元することを常に考えています。
田山:熊本の力を借りる中で、次に問われるのは「熊本」に対して「何」を加えていくかではないでしょうか?熊本で誕生しているだけで、緑や山、海などは先天的にインプットされているはずなので、その先をいくことでアイデンティティが生まれるのかなと。
例えば、山鹿で加工した煤、水俣の手織りの布、水上村での藍染めに、イタリアのロロピアーナの生地を加えてみるのも面白いかもしれません。アイデンティティは熊本にあるから変わるわけではない。熊本出身だけどたまに留学してみることで、アイデアの可能性が広がるのです。
古荘:たしかに、そこで生まれたということはDNAに刻まれていますからね。別の要素を取り入れることで、独自のアイデンティティが形成されるというのは共感できます。
田山:各国の服の特徴でいうと、イタリアンカジュアルは派手めな服が多く、雑誌『LEON』のような、ちょいワル親父風。アメリカンカジュアルはハワイやロスの服に多く見られるワイルド系。あとは、比較的地味で安定感のあるフレンチカジュアルと、タータンチェックやグレーンチェックのような昔のクラシックファッションを着崩したスタイルのブリティッシュカジュアル。大きく分けてこの4つがあります。なので、熊本の要素がどれにうまく掛け合わさるかを考えるのが重要です。
サスティナブルなものづくりの本質
ー田山さんが洋服をデザインされてきた90年代から今にかけて、スタイルがより細分化しているような印象を持ちました。環境問題にも向き合いながら、本当に服を必要としている人に届けていることについて、考えをお伺いできればと思います。
田山:私が服を通して環境問題に貢献するのであれば、捨てないという点が一番だと考えています。私の服は、たくさんの人が買ってくれるわけではなく、顧客比率が高い。好きだと思ってくれている人しか買わないので、すぐに捨てられることがありません。
なので、私が服をつくる時は、サステナブル素材を使うことにこだわるよりも、プロパー消化率を上げるなど、捨てられない観点を大切にしています。
古荘:ずっと着てもらうこと、それそのものがサステナブルということですね。本当の意味で環境保全のためにできることは何かを考え直すということですね。
田山:サステナブルを推進している会社でも、社長がジェット機やヘリコプターを使ってゴルフに行くなんてこともあります。世の中は、そういう風に矛盾しているものなので、自分ができる範囲のことをすれば良いのかなと思います。
古荘:本日はとても貴重なお話をありがとうございました。