中塚翠涛さんと語るubusunaの服
中塚翠涛さんと語るubusunaの服
今回の対談のお相手は、ubusunaのロゴをデザインしてくださった書家 中塚翠涛(なかつかすいとう)さん。古荘本店社長の古荘とデザイナーの縄田が、ubusunaの服やロゴに込められた想い、実際に着用していただいた感想を伺いました。
中塚翠涛(なかつか すいとう)さん
日本を代表する書家であり、現代書道の先駆者として広く知られています。伝統的な書道の技術を基盤としつつも、斬新なアプローチを取り入れ、書道を新たな芸術表現へと昇華させています。パリ・ルーヴル美術館に併設する展示会場で開催されたサロン・アート展では招待アーティストとして招かれ、「インスタレーション賞金賞」と「審査員賞金賞」のダブル受賞という快挙を達成しました。また、2020年のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」では、力強い題字を手がけ、その存在感を表現しました。著書『30日できれいな字が書けるペン字練習帳』(宝島社)は累計430万部を突破するなど、様々な分野で活躍されています。
■ ubusunaを実際に着用してみて
古荘:今日はshop ubusuna | 熊本 までお越しいただきありがとうございます。いろいろとお話しをお伺いできればと思います。
中塚さん:こちらこそありがとうございます。2年前にプロトタイプの服を見せていただいてから、今回はこのように完成したubusunaの服を拝見できてうれしいです。最初にお会いしたときの古荘さんはスーツ姿でしたが、完成されてからはubusunaを着用されていて、とてもお似合いだと思います。
古荘:ありがとうございます!最近は、ubusunaを着て東京などにも行くことが増えました。街を歩いているとみんなに見ていただいています。
先ほどubusunaを着用していただきましたが、いかがでしたか?
中塚さん:見ているのと纏ってみるのとでは、全然印象が変わりますね。纏い方によって七変化するようなそんな印象もありつつ、着る人に寄り添ってくれる雰囲気も感じました。
縄田:以前お会いしたときに「やさしい服を作ってほしい」と中塚さんから言われていました。服作りをしている中で「やさしさ」はずっと根底にあったように思います。
中塚さん:「やさしい服」…捉え方が難しいですね。ubusunaの服は、個性的で日常になかなか挑戦しづらそうな 雰囲気もあるのかもしれませんが、実際に触れて、纏ってみると、ubusunaのお洋服のやさしさが肌に馴染み、細部への拘りや丁寧なお仕事に、作り手の皆さまの想いを感じました。
縄田:ubusunaは、服作りの本質を深堀してきました。その結果、今までにないデザインになりました。「今までにない」服をつくろうとしてしまうと、結果どこにでもある服になってしまう恐れもあって、バランスを取るのに苦労しました。
中塚さん:今までにないものが決して奇抜なものでもなく、ありふれたものとの違いの落としどころ探しは、私の制作にも通じます。一見普通のようで何かが違う魅力を引き出すことを伝えていくことの難しさを押し付けず、優しさを感じました。試着させていただいた「月読ベスト」も素敵ですね。1枚で着てもコートの上に重ね着しても様々な表情が楽しめますね。
縄田:月読ベストは本当に苦労しました。熟練の技で縫い目を丁寧に処理し着やすく、やさしい服になりました。
中塚さん:なるほど。だからごわついたりせずに、体にフィットしてくれるんですね。
縄田:ubusunaは作る方との共創も大切にしています。一般的なアパレルメーカーは「これを作ってください」「はい、できました」という簡素なやり取りが多かったのですが、ubusunaでは服作りを依頼する私たちと、共創先とは、同じ目線に立つことに拘りました。一緒に縫製自体をデザインする、ということにも挑戦しました。みなさんに長い間ずっと着てもらいたいという思いがあります。日本古来はそういう物作りをしていたのです。でも今はそういう物つくりの仕方を日本では忘れてしまっていて。
古荘:「日本」っていうコンセプトでスタートしてますので、これをいかに日本国内で広げていけるか。またゆくゆくは海外の日本に対して興味を持っている方に、しっかり良さを伝えていきたいです。
中塚さん:フランスの方は、作り手の思いやルーツをすごく大切にするイメージがあります。ぱっと見た印象でまず最初に好きか嫌いか判断するというのはもちろんありますが、そのルーツだったり、どういう思いで作ったかというところにも、すごく興味を持たれてる気がします。以前、私の作品について「あなたの作品はモダンとトラディショナルどちらなの?」と質問された方がいました。私は「トラディショナルを学んできたけれど、自分の見てきた景色や音、香りなどを重ね、自分のスタイルを作り続けています」とお答えしたら、「だからあなたの作品に興味があるんだわ、そうじゃないとあなたでなくても良いものね」と言われたのです。
自分が1人のアーティストとして海外で活動していると「あなたって何者なの?」ということをすごく求められます。最初は自分のことを伝えるのがとても苦手でした。「私なんて…」とか 「これはちょっとこんな感じで…」と、なんとなく遠慮がちでずっとやってきたんですが、やっぱりフランスで展示をさせていただくたびに「あなたのアイデンティティは?」「この作品のタイトルについて私はこう思う」と、見る方がどんどん意見を下さることに、日本とのギャップに驚きます。「私はこう見える」「僕はこう感じる」でもそれが決して間違いでもないし、押し付けることでもなくて、自由な発想でいろんな考え方があっていいんだよ、ということを学んでる気がします。こう言われたからこうしなきゃ、ということではなくて、伝統を大切にしながら常に進化していくことの必要性を実感しました。先ほどおっしゃっていましたが、 昔のおばあちゃんたちが作っていた製法っていうのを今の時代も大切にしなきゃいけない。でも 今の時代に合ったやり方で、という工夫が本当に感じられるお洋服だな、と思いました。
■ ubusunaロゴに込められた想い
古荘:本当にこのubusunaっていうロゴがすごく好きで。いたるところで使わせていただいていますけど、このロゴはどんな思いを込めて書いていただいたのか、そのあたりをぜひお聞かせいただけますでしょうか?
中塚さん:初めてのお打ち合わせのときに、お蚕さまから育てていきたいんだというお話を伺っていたので、それでしたら糸が紡がれていくような、そんな雰囲気をどうやったら文字に表現できるかな、と考えました。 日本から世界へ!という発想はもちろんなんですけど、私の中では現代から未来へ作り手さんや職人さんの想いを紡いでいき、継承していくような、そして人と人が繋がっていったらいいなと、そんなイメージを膨らませて書かせていただきました。
古荘:ありがとうございます。特に産土の土の字の最後の表現がすごくそういったところを感じさせますよね。
中塚さん:お話を聞かせていただいて、「やさしい服を」という想いは、もの作りに大事なことだなと改めて感じました。表面的なかっこよさだけではなく、根底にあるやさしさを伝えていけたらいいなということを考えていました。
古荘:ubusunaのロゴをつくる上での試行錯誤はどのようなものでしたか?
中塚さん:意外と最初のインスピレーションで、ラフで描いたものが良かったりするんですよね。そこからブラッシュアップして何度も作っていきました。他には可読性のあるubusunaも書いてみましたが、読みやすさを意識するとどうしても技術に走ってしまうところがあります。
ubusunaさんの思いやイメージを形にするには、自分の色をなるべく出さず、エッセンスだけ残していけるような…そんな想いで取り組ませていただきました。
古荘:中塚さんは以前、ご自分の作品はいろんな見方をして良いと仰っていました。私なりにこのロゴを見た時に、神名備 (かむなび)というか山に見えたんです。神様は山にいらっしゃるという考え方があると思うのですが、そんなイメージが浮かびました。そのあたりもすごくブランドコンセプトにしっくりくるなと思っています。
中塚さん:日本の方は漢字ってわかると上手い下手、読めるか読めないか、ということから入る方が多いです。というのも、お習字教室に通っていた記憶というのがあって、どうしても先入観があるんですよね。なので、お洋服のイメージやコンセプトなどを事前にお聞きできたおかげで、抽象的に表現しつつも「土」は読めた方がよいかな、とか見る方によって何かが見え隠れするというか…そういう世界観を表現できたらと思っていました。
≪呵呵≫
古荘:このショップをオープンしたのが2024年2月頭でお店の壁面にはずっと何もありませんでした。何かちょっと物足りないな、と感じていたときに、中塚さんの展示会にお伺いしました。この場所の写真を見て頂いた上で、この呵呵が「ubusunaと合う」っていうふうに言って頂いて。実際にこちらに飾らせていただいてから、すごく空気感が変わったな、と日々感じています。本物の芸術作品は、こんな風に空間まで変えるんだな、ということを身をもって感じました。久しぶりにご自身の作品とお会いしていかがですか?
中塚さん:何故か「久しぶり」な感じというより、「いらっしゃいませ」と言われているような、ここのお家の子になったんだなという感覚がしました。いつもだと懐かしいな、とか思うんですけど、きっと皆さまに大切にしていただいてるんだなと感じました。この「呵呵」は私の母が一番のお気に入り作品だったんですけど、shop ubusuna | 熊本に置いて頂く事に決まったことを伝えたらすごく喜んでました。不思議なのですが、展示会場に飾っているときは、よそ行きの顔をしているんですよね。里親探しをしているかのような。人がたくさんいるとちょっと遠慮気味にして静かになる子もいるんですよ。ただ、この人のところに行きたいなっていうときにはきちんとアピールして、ご縁ができるんです。面白いですね。
この作品は2022年に制作した作品で、コロナ禍マスクを外せない時期だったんです。みんな、きっと窓から外を見て、外の世界や旅に思いを馳せたりしている状況でした。そんな中、人間はやっぱり笑わないと駄目な生き物だなと感じ、お腹の底から大笑いをするっていう「呵呵」という言葉を自分ならどう表現したいかなと取り組んでいた際の作品です。私の作品シリーズの中に、長年「楽」という字をモチーフに制作しているものがあります。
楽しく気楽にやろうよとか、笑顔で楽しむのが1番だよね!という意味ももちろんあるのですが、孔子の言葉で「知之者不如好之者,好之者不如乐之者(物事をよく知っている人は、そのことを好きな人にはかなわない。 また、それがいくら好きであっても、それを楽しんでいる人にはかなわない、という意味)というものがあります。
私は中国文学を学んでいたこともあって、この孔子の言葉がとても好きです。この言葉の意味から「楽」という字を書いてる方は少ないんじゃないかな。そこからの 流れで「呵呵」という言葉も表現しています。
■ 中塚翠涛さんお気に入りは月読シリーズと羽織
古荘:何かubusunaの服でプライベートでも着たいっていうお洋服はありますか?
中塚さん:コートもなんですけど、月読ベストもやっぱり気になっています。本当に技術がないと作れないだろうなと思いますし、表情をいろいろ楽しめる。コートの上から重ねるというのも良いですね。
古荘:そうしたら中塚さんのお気に入りは「月読ベスト」と「月読ジャケット」ということで!
中塚さん:パーティーシーンでも着れそうですし、パンツスタイルでもどちらでも楽しめそうだなって。デニムにもあわせられそうですね。
縄田:ベストを中に着るっていうのが本当は真逆の着方で。月読ベストは陣羽織をモチーフにしていて、それこそ戦国時代は甲冑の上から陣羽織を羽織っていたので。あと横から見ても上から見ても後ろから見ても丸く見えるというか、どの角度から見てもお月さんのお話ができるようなそんなイメージでデザインしました。
中塚さん:羽織りはとても軽くて、何にでも合わせられそうですね。
こちらもおすすめです!ラグジュアリーってなんぞやと考えた時に、見た目の華やかさとかゴージャスさっていうところに目が行きがちですが、ubusunaさんは心の豊かさというか、「心のゴージャスな部分」を再現されていらっしゃるな、と感じました。
例えば贅沢な素材だったり、手仕事だったり、時間と手間暇をかけてもの作りをするっていうことが現代では減ってきているじゃないですか。どうしてもファストファッションに走りがちですし、そういったものが、ubusunaさんを通してこれからたくさんの方々に届いてほしいです。
古荘:気に入っていただけて本当に嬉しいです。これからもどうぞよろしくお願いします。